奈良公園の入口に位置し観光にも便利な興福寺は、中世から近代にかけて戦乱、火災、廃仏運動等で多くの建築や美術を失ったものの、未だに白鳳時代から鎌倉・室町時代に至る幅広い年代の仏教美術の宝庫です。
興福寺の建築、仏像、その他美術品の中から特に見どころと思われる20件をまとめました。
1. 東金堂
室町時代(1415年)、国宝
興福寺に3つ存在した金堂(中金堂、東金堂、中金堂)のうち、現在も残る唯一の金堂。室町時代の再建建築だが、天平建築の様式を継承している。堂内には薬師三尊像、四天王立像、十二神将立像等の仏像が安置されている。

2. 東金堂 薬師三尊像
薬師如来坐像:室町時代(1415年)、日光・月光菩薩立像:白凰~奈良時代、重文
東金堂の本尊の薬師如来坐像と、脇侍の2体の菩薩像。本尊の薬師如来坐像は、室町時代の東金堂再建時の制作。

3. 東金堂 維摩居士坐像
鎌倉時代(1196年)、国宝
東金堂の本尊薬師如来像の左前に配置されている、釈迦の弟子維摩居士の像。定慶作。

4. 東金堂 文殊菩薩坐像
鎌倉時代(1196年頃)、国宝
東金堂の本尊薬師如来像の右前に配置されている、文殊菩薩像。
5. 東金堂 四天王立像
平安時代、国宝
東金堂の須弥壇の四方に配置されている四天王像。

6. 東金堂 十二神将立像
1207年(鎌倉時代)、国宝
東金堂の本尊薬師如来像の周囲に配置されている、十二神将像。

7. 旧東金堂本尊(仏頭)
飛鳥時代(685年)、国宝
鎌倉時代に、飛鳥の山田寺から興福寺東金堂へ本尊として持ち込まれた白鳳仏。その後東金堂の火災により体部が消失し、頭部のみが残存している。国宝館で展示。

8. 板彫十二神将像
平安時代、国宝
板彫の十二神将像。かつては東金堂本尊の台座に貼り付けられていたと考えられる。国宝館で展示。

9. 八部衆立像
奈良時代(734年)、国宝
阿修羅像、沙羯羅像、迦楼羅像等で構成される計8体の従者像。特に阿修羅像は造形の独創性が高い。かつては西金堂(現在は失われている)に本尊の眷属として設置されていた。国宝館で展示。

10. 十大弟子立像
奈良時代(734年)、国宝
釈迦の十人の弟子像で、現在はうち富楼那像、迦旃延像等の6体が興福寺に残っている。かつては西金堂(現在は失われている)に本尊の眷属として設置されていた。国宝館で展示。

11. 金剛力士立像
鎌倉時代(13世紀初め)、国宝
元は西金堂に設置されていた2体1組の金剛力士像で、東大寺南大門の金剛力士像と並んで鎌倉時代を代表する金剛力士像のひとつ。国宝館で展示。

12. 天燈鬼・龍燈鬼立像
鎌倉時代(1215年頃)、国宝
灯籠を持つ2体1組の鬼像。かつて西金堂に設置されていた。国宝館で展示。

13. 五重塔
室町時代(1426年)、国宝
東金堂の隣に立つ五重塔で、室町時代の再建建築。東寺の五重塔に次いで日本で2番目の高さ(50m)の木造塔。

14. 北円堂
鎌倉時代(1210年)、国宝
興福寺の敷地西部に位置する、八角形の小規模な堂宇。鎌倉時代の再建建築で、堂内には運慶一門作の弥勒如来坐像、無著菩薩・世親菩薩立像等が安置されている。普段内部は非公開で、例年春と秋に各2週間程度特別公開される。

15. 北円堂 弥勒如来坐像
鎌倉時代(1212年)、国宝
北円堂の本尊で、運慶晩年の作。鎌倉時代の再建期に、同堂の無著・世親菩薩立像等と同時に制作されたと推定される。通常非公開で、例年春と秋に各2週間程度特別公開される。

16. 北円堂 無著・世親菩薩立像
鎌倉時代(1212年)、国宝
北円堂の本尊弥勒如来坐像の脇に設置されている、古代インドの兄弟の学僧、無著と世親の像。運慶晩年の作。通常非公開で、例年春と秋に各2週間程度特別公開される。

17. 南円堂 不空羂索観音菩薩坐像
鎌倉時代(1189年)、国宝
興福寺の敷地西部に位置する、南円堂の本尊。平重衡の南都焼討(1181年)で創建以来の南円堂と本尊が焼失した後、康慶一門によって再興された。普段は非公開で、毎年原則10月17日のみ公開される。

18. 南円堂 法相六祖坐像
鎌倉時代(1189年)、国宝
南円堂に安置されている、奈良時代から平安時代初めに奈良で活躍した法相宗の高僧6人の像。康慶一門作。普段は非公開で、毎年原則10月17日のみ公開される。

19. 南円堂 四天王立像
鎌倉時代(1212年頃)、国宝
南円堂の本尊 不空羂索観音菩薩坐像の周囲に配置されている四天王像。近年の研究で、元来北円堂の弥勒如来坐像、無著・世親菩薩立像と共に運慶一門によって制作された四天王像で、後代に南円堂に移されてきた像との説が有力になっている。普段は非公開で、毎年原則10月17日のみ公開される。

20. 三重塔
鎌倉時代前期、国宝
興福寺の敷地の南西隅に位置する三重塔。元来の塔は平安時代(1143年)に建てられたがその後焼失し、鎌倉時代に現在の塔が
再建された。

[参考]
浅井和春『日本美術全集 第3巻 奈良時代Ⅱ 東大寺・正倉院と興福寺』
小学館、2013年
山本勉『日本美術全集 第7巻 鎌倉・南北朝時代Ⅰ 運慶・快慶と中世寺院』小学館、2013年